病院歯科介護研究会 第23回総会・学術講演会

The 23rd Annual Meeting of the Workshop on Oral Health Care of the Inpatient

シンポジウム

 

多職種からみた口腔管理の課題

 
 

 

 
 

1. 「その先にあるものを見据えた言語聴覚療法の提供」

時田 春樹 
川崎医療福祉大学リハビリテーション学部 言語聴覚療法学科 准教授
/一般社団法人 広島県言語聴覚士会 会長

  言語聴覚士(以下、ST)とは、病気や交通事故、発達上の問題などで言語機能や嚥下機能、発声・発音機能、聴覚機能、認知機能などが損なわれた方々に専門的サービスを提供し、自分らしい生活を構築できるよう支援する専門職である(日本言語聴覚士協会HP、一部改変)。1999年に第1回の国家試験が行われ、現在までの有資格者数は36,255名(2021年現在)である。STの約7割が、医療機関に所属しており、脳卒中や神経難病による摂食嚥下障害に対して、リハビリテーションサービスを提供している。

 より効果的で、安全で、そして効率的な摂食嚥下障害リハビリテーションの提供には、多職種連携が欠かせない。特に自らの専門的知識や技術の向上のみならず、他職種の専門性や業務内容を理解し、対面でのコミュニケーションを欠かさず行うことの重要性は、前職の急性期病院でたくさん学ばせて頂いた。本シンポジウムは、「多職種からみた口腔管理の課題」というテーマである。このテーマからは、「多職種によるさまざまな視点を取り入れることが、より質の高い、そして持続可能な医療サービスの提供につながる。そして、それらを時代背景に合わせて意識的に行っていくことが、目の前にいる患者や家族のために大切なのである。」という松永一幸 大会長からの強いメッセージを感じることができる。

 口腔管理の課題について、まずは教育の視点から触れてみたい。現在、全国にはSTの養成校が74校あり、毎年約2,000名が有資格者となっている。養成校では、解剖学や言語学、心理学をはじめとした基礎教育科目と、嚥下障害や失語症、聴覚障害などの専門教育科目を学ぶ。その系統的なカリキュラムにおいて、歯科や口腔管理に関連する授業時間数の割合は全体の約0.4%であった。また、卒後教育の一環として、日本言語聴覚士協会は、2008年より摂食嚥下領域の認定言語聴覚士の養成を始めている。認定講習会の中で、歯科や口腔管理に関する講義や演習が組み込まれているが、決して十分であるとは言えない。在校中や卒後教育の機会において、歯科や口腔管理の知識により多く触れていくことが今後重要であると考える。次に職種間連携の視点から触れてみる。平成26年度広島県歯科衛生連絡協議会「発音・咀嚼嚥下機能障害患者に対する病診・多職種連携検討会議」では、広島県内の医療機関に所属するSTに対して、歯科医師との連携に関するアンケート調査調査が実施された(回収率61%、200/328)。結果、歯科医師から相談を受けたことがあるSTは約30%で、歯科衛生士から相談を受けたことがあるSTは約35%であった。また、担当患者の口腔管理トラブルについて困った経験があるSTは約84%であったものの、相談できる歯科医師を持つSTは約67%であった。数年前の調査結果であるため、現在の事情とは少し異なっているかもしれない。しかし、多職種からみた口腔管理において、歯科医師そして歯科衛生士との強い連携が求められることは、依然変わりがないものと考える。

 最後にSTが口腔管理を行うことの強みに触れてみたい。STは失語症や認知症、構音障害、聴覚障害など、コミュニケーション障害に関する専門的知識や臨床経験を持っており、目の前の患者にとって、もっとも有効なコミュニケーション手段を確立することができる。また、意思疎通を図るための臨床技術も持ち合わせている。「意思疎通」とは「想いを共有する」という意味を含有している。患者や家族は日々大変な思いをしながら、脳卒中と対峙している。そのような中で、意思疎通の機会が確保されているということは、患者や家族の安心感や自己肯定感、他者や社会との所属感の向上に大きく影響を与えるものであると考える。Well-being(よりよく生きる)の実現のためには、口腔管理にSTは欠かせないのである。

略 歴
2003年
川崎医療福祉大学医療技術学部感覚矯正学科 卒業
2003年
(現)社会医療法人祥和会 脳神経センター大田記念病院 入職
2011年
川崎医療福祉大学大学院医療技術学研究科感覚矯正学専攻 修士課程入学
2013年
           同    修了
2013年
川崎医療福祉大学大学院医療技術学研究科感覚矯正学専攻 博士後期課程入学
2016年
           同    修了
2017年
川崎医療福祉大学 医療技術学部 感覚矯正学科 講師
川崎医科大学附属病院 リハビリテーションセンター 言語聴覚士 併任
2018年
川崎医療福祉大学 医療技術学部 感覚矯正学科 准教授
2019年
川崎医療福祉大学 リハビリテーション学部 言語聴覚療法学科 副学科長 准教授
 
社会活動
2016年3月
一般社団法人広島県言語聴覚士会 会長

所属学会
・日本高次脳機能障害学会 代議員
・日本神経心理学会    評議員

新庄村国民健康保険歯科診療所
担当:金盛 久展
TEL   0867-56-3056
FAX  0867-56-3434 
E-mail hisanobu@mx9.tiki.ne.jp

病院歯科介護研究会事務局
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